ありきたりですよ。中学生の頃に叔父ががんで亡くなる場面に立ち会ったんですが、それが自分にはかなりショックで。もともと生き物が好きだったのもあいまって、だんだんと医者を目指すようになりました。と言っても、アメリカのカーフレンジャーとか(笑)、イルカの研究者とか、寿司職人に憧れてたこともありましたし、とにかくやりたいことが色々あったんですけど、最終的には人のためにできることを、と思って医者になりました。
ひとつはよくあるやつで、ジェネラルに興味があったから。その中でなぜERかというと、学生の頃は、GIMに興味があったんですよ。でも、最初に働いた病院のGIMは話が長くて。1時間くらいかけて1人について話すのに結局結論が出ない、それが短気な自分にはあわないなと思ったんです。一方で救急は、限られた時間と情報で色々と判断していく、そのスピード感ないしはテンポがすごく好きだったので、救急を選びました。あのバタバタ感がいいんです。いちばん辛いのは、患者さんが来なかったり、ダラーっとした時間が過ぎたりすることですね。バタバタしてると時間が過ぎるの速いですから(笑)。
Residencyを終えて、教育系かマネジメント系か、どういったFellowshipに進むかどうかを考えた時に、教育の重要性はもちろん分かっているけれど、将来的にやりたいことを考えた時にも自分には違うなと思って。いろいろな部門を巻き込んでシステムを変革するとなるとマネジメント系の方が役に立つのだろうと考えて、結局AdminのFellowshipを選択したんです。その時一緒にMBAも取らせてもらえた感じでした。
こういう視点があるんだなと気付かせてもらったことがすごくありがたいなと思っています。医者は医療の世界にいる限りはお殿様のような状態、自分の思い通りになると思ってしまうんですよね。でも、MBA取得を通じて気付いたのは、実際には医療には医者だけではなく、事務や経営も絡んでいて、そういう人たちと共通の言語を持っていることは何かやるうえでメリットになるということでした。今の藤田でも、例えば経営陣に話をする時に、メリット・デメリットを客観的に表や文章にまとめて示すことで、話がすんなり進むのは実感しています。そうしたNegotiation Skillというのも、実践的にすごく役に立ったかな。
ぶっちゃけ自分のQOLや給与を考えればアメリカの方がいいと思います。でもER型救急に関して言えば、アメリカの医療の歴史全体の中で見れば日は浅いとはいえ、やはり日本と比べればER型救急は確立されてきているものなんですよね。僕が大学を卒業した20年くらい前の時点ではER型救急をやっている人は変わった人たちしかいなかった。それが、今では概念はだいぶ広まって理解してくれる人は増えているので、まだまだやれることがこれからあるだろうと思っているんです。駆け出しの頃に一緒に参加して何かを作っていく、ビジネスで言えばスタートアップ的な形が自分にはあっているので、確立されたアメリカのER型救急より、日本でやる方が面白いことできるだろうと思って日本に戻ってきました。
ER型救急をやっている病院に関しては、そんなに差はないかなと思います。でも、アメリカの方がひとつの病院にいる医者の数が多いので、働く時間やシフト数という意味ではアメリカの方が恵まれているかな。もう少し広い意味でとらえると、アメリカでは一次~三次すべて受け入れる救急を基本的にはER型救急というのに対し、日本の救急はもともと三次救急をメインに育ってきているので、古典的なところだと三次しか受け入れないんです。考え方の違いではあると思いますけれど、やっぱり一次・二次の中にも三次クラスは隠れているし、全部受け入れて初めて地域に役立つ救急かなと思うので、そうした救急が日本でももっと増えるといいなあとは感じます。
幸い愛知県エリアに絶対的な救急の存在はないので、全国的に見ても比較的早くER型救急を理解した地域かなと思ってます。僕から見るとまだまだ広まる必要はあるかなと思っていますが、20年前と比べればER型救急をやっている人が増えているので、ネットワークはできつつあると言っていいんじゃないかな。
働き損だなあと不満に思うところがあるんですよ。というのも、救急を頑張っている病院と、救命センターと名乗りながらあまり患者を受け入れていない病院があって。自分がこれまで働いてきたところは基本的になんでも受け入れるスタンスだったのですが、他のところの話を聴くとそうでもない。救命センターだったら基本的に全部受け入れろよと思ってしまうんですけど、そこが本質ではなくて、応需率が低いという事実が闇に葬られているということがおかしいと思うんです。もっとfairな、transparentな救急体制にしてほしい。
二次救急も大事だと思います。1つの病院に全部が集まるというのはできないです、実際にやろうとして頓挫したケースも見てきました。そういう意味では、一次から三次まで全部やるのが偉いというのではなくて、二次までをやっている病院もあって、それに加えて三次もやっている病院がある、というのでいいんじゃないかな。だから、一次・二次の位置づけとしては、来る人を拒まないという意味ですごく大事な立場だと思います。
「この人断ったらどこに行くんだろう」というのがずっとあります。「専門だから受ける」「専門外だから受けない」というスタンスは、自分としてはよろしくないなと思うんです。地域のセーフティーネットであるべき救急で、一通りまず何でも診るというスタンスのER医という存在がいれば、その救急ってひとまず受け入れるという雰囲気になると思うし、それが断ることを減らすのにつながるんじゃないかなと。なんでもひとまず診られる、診断と初期治療ができるER医というのが広がると、たらい回しや、救急車の拒否というのは減るんじゃないかなと思っていますね。