パイオニア志向の医師・医学生のための進路検討/キャリア形成プラットフォーム

"Chin up." 治せない病を治すために、胸を張って前に進む
―Dr. 木下茂―

2022/2/4

■□ これからの医学生には、自分の頭を使って考えて、自信を持ってaggressiveに新たなものを創っていってほしい

--先生は学生時代はどんな学生だったんですか。

 自分の学生時代は学園紛争の時代でした。東大で安田講堂の事件があったのが私が入学した次の年のことでしたから、入学して1年目は普通に授業があったけれど、2年目は11カ月間も授業がなくて。「これは留年ということになるんだろうなあ」と思っていたら、最後の1カ月だけ授業をやって「進級!」と言われてびっくりしましたよ、それで3年生から医学の勉強が始まったんですから(笑)。そんな時代でしたから、入学した時から、学年100人友達だろうに内部になんとなく派閥争いの空気感があって、それが嫌で大学に行きたくなかった私は全学のヨット部に入り、結局西宮で3年半を暮らしました。年に180日間が合宿で、大学まで授業を受けに行かなければいけないとなるとやっと西宮から出かけていくような部活でしたよ。その分、引退してからの残り2年半くらいは医学生として極めて真面目にやりましたけどね。

--そんな学生生活を送られていた先生からご覧になったら、今の医学生は全然違いますよね。

 今の医学生は真面目すぎると思います。私は、「学ぶ」ではなく「習う」、強制的に物事を詰め込まれるようなのはあまり意味がないなと考えているんです。自分で何かを考える、何かを創っていく、という頭の使い方が必要ではないでしょうか。どの大学であれ、医学部に入学してくる人たちというのは、やはり一定水準以上の能力があると思います。だけど、何かの研究や診療に取り組むとなった場合に、本質的にやるべきだからやっているならいいのですが、そうではなくて単純に得意なことをやっているだけで本質から外れているケースも少なくなくて、もったいないなあと感じます。私は、誰もがself confidenceを持って、自分が何をやらなければいけないかということを自分でしっかり考えてやっていったらいい、まさに “Chin up.” であればいいと思います。

--逆に、先生はどんな医学生にhopeやpotentialを感じられますか。

 今の医学生はみんな、多分私たちの時代よりも能力を持っている人たちの集団だと思います。足りないのはaggressiveさでしょうか。アジアの人はものすごいaggressiveです。インターネットで一定程度の情報を収集できるし、しかもそれなりの英語もできるからコミュニケーションがとれる。そうやってどんどん前に出てくる人たちが、アジアにはたくさんいますよ。

--先生のこれまでのキャリアの中で、やり直したいことだったり、もう一度経験したいことだったりはありますか。

 ほとんどないです、だいたい人生おまかせですから。僕はほとんど人生のプランニングというものを持たないでやってきました。眼科に入ったのもおまかせ、入ってからどこの病院で何をやるかもおまかせ。アメリカに行くこと自体は自分で頑張ったかもしれませんが、そもそもは上の先生に「とにかくお前はアメリカに来ないといかん」と言われたのがいちばん最初ですしね。だいたい来たものに乗っかってここまで来ました。

--先生はおまかせとおっしゃいますけれど、本当におまかせにしていたら先生のようなキャリアを歩むのはとても難しいのでは…なんて思ってしまいます。

 いやいや、そんなことないですよ。もしかしたらラッキーだったのかもしれないですけどね。そのラッキーにつながっているかは分かりませんが、実は、自分はなぜか外国人に大事にしてもらうんです。多分、誘われたら断らない、というか断れないからでしょうね。飲み会でも講演でも、何か誘われたら絶対に行きます。

--先生が海外でも信頼を置かれるゆえんは、ご実績のみならず、「断らない」という人間性の面にもあるのではないかと感じました。

 研究に関しては、自分たちの論文はrepeatableであると海外でも評価されていると思うのですが、何が最も評価されているかというと、「あいつが言っていることは2回やらなくていい」という点だと思うんです。我々が報告したことはデータを検証する必要はなく、一度出したらそれで信頼してもらえるようになっていますね。絶対に間違いがないように徹底する。論文を出した数だったり、どのジャーナルに通ったかだったりを気にするのではなく、Resultが確実に正しいこと、それを大事にしています。それがまさに “Chin up.” ですね。

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