パイオニア志向の医師・医学生のための進路検討/キャリア形成プラットフォーム

困っている「ひとり」に手を差し伸べる、総合診療医の信念と挑戦
―Dr. 進谷憲亮―

2021/3/8

□■ 自分がその場にいなくても誰かが救われる、そんなきっかけを

--すごく分かりやすかったです!続けて、開業される予定があるとお伺いしているのですが、それについてもお話伺ってよいでしょうか?

 まず、開業前の4月からは、北九州市の病院で勤務します。そもそも課題意識を感じて地域に出ようと思ったきっかけは、病院の中での経験なので、北九州市でも同じようにまずは病院からスタートして、地域の課題を見つめていきたいです。
 実際の開業は今年の11月の予定です。僕個人の独立のメリットと目的で言えば、地域に根差して開業することで、ただ診療をするだけではなく、地域の医師として地域にどう関われるかを考えられるのがポイントかなと思っています。僕という医者がひとりいることで病院・診療所・福祉といった施設間にどんな連携が生み出せるかが課題ですね。
 組織の観点からいくと、(Needsの活動と連携させていくことになる予定なのですが)もともと伊東は形にすることをすごく大事にする人間なんですけど、社会人10年目までに独立しようというのが僕たちの目標のひとつで。開業するってハコ作りのイメージが強いですけど、実際はハコから作っても使えないものしか出来上がらないと僕は思っています。一方で、ある時までは人間関係やシステムをうまく使えばハコなしでも十分機能しますが、やはりどこかでハコが必要になる時もくる。北九州市という地盤で行政や他団体との連携ができるようになってきた今、ハコが必要なタイミングが来たと僕は思っています。もともと北九州市に戻りたいとはずっと思っていたので、戻るのであればやはり雇われの身ではなく、自分で理念を作れる・組織を変えられる立場で戻りたい。組織として独立して、経営者という立場で、診療もしながら関わりたいんです。しかも、地域の中で何を求められているのかが見えてきて、医療の文脈がないと対応しきれないなと感じる場面も増えてきたので、そういった場面に対しどうしていくかはまだまだ考えないといけないですね。

--開業されるのは、苅田町ではなくて北九州市なんですね。

 将来的には戻りたいと思っています。ただ、その関わり方が医療である必要はなくて、本当に苅田町で求められていることをやりたいと思っています。むしろ先に北九州市に行くのは、苅田町の隣の市として、将来的に苅田町で診療することを視野に入れた時に大きい病院との連携基盤を築くという意味もあります。
 ここからは僕個人の勝手な考えですが、京都郡のような田舎町でも、医学部はなくても看護学校はあるんです。医師よりも看護師の担う部分が大きい場所なのに、地方では看護師を地域医療の担い手として教育しきれていないのでは?と予想しています。実状を確かめつつ、僕らが教育者として赴いたり、訪問看護の基盤を作ったりする方が、田舎にとってはいいんじゃないかと思っています。
 いずれにせよ僕は “WHAT” にこだわりがないんですね。地域の課題と解決策にあわせて、現実的にできることを一緒に作りたいです。

--教育の場面でのご活躍においては、何かビジョンをお持ちなんでしょうか。

 ビジョンみたいな大きなものはないです(笑)、いただいたご縁ですね。しいて言えば、ビジョンは子どもたちの中にあると僕は考えています。学力だけ養っても、その学力をどこに活かすかを見つけられていない状況が現代の子どもには多いような気がしているんです。だから、「なんかあの時こんなこと話してた人いたかもしれない」程度でもいいので、学校生活とはちょっと違う刺激を与えられれば、彼らの人生が何かちょっと変わるかもしれない、それだけの思いでやっています。  
 今の学校教育のおかげで今の社会があるんだということはよく分かった上で、次はその社会の中でアイデンティティを構築しづらいのが課題ではないかと僕は思います。そのまま社会に出た時に、あるいは学生の間からですら、自分の行き場を失う人がたくさんいますよね。そうなる前に、「ありのままでいいんですよー」って言いたいんです。

--私が中学生の時に進谷先生のお話を伺っていたら、多分かじりつくようにして聞いていたと思います(笑)

 学生としゃべっていると自分の方が刺激になりますし、そうやって言語化し続けてきたからこそ自分の考えがはっきり明確にできるようになったのかなと思いますね。医療の現場を経験したことのない人にも分かるように医療の話をするのは気付きが多いです。
 学校だけでなく、僕のやっていることは究極的にはすべて教育なんじゃないかと思っています。僕が寄り添ってずっと支えていける人なんて、患者さんでも学生さんでもひとりもいないわけです。僕がその場で伝えたことが相手に残らないと意味がないから、伝え方を極めることは医療者として大切だなと日々感じています。

--進谷先生のご活動の幅が広すぎて、いくら伺ってもインタビューが終わらない気がしてきました…。

 ここは強調しておきたいんですけど、僕、東京で週5, 6で診療してますからね(笑)。病院外の活動の方が目立つのは確かにあると思いますが、診療を主軸に置き、そこからぶれないようにするというのは僕のこだわりです。