ただし競争は激しいです。すぐクビになるし、入れ替わりは激しいし、若いのにすごく偉くなる人もいれば、年をとっても万年助手みたいな人もいるし。年功序列とか存在しないです、なんなら僕は同僚の年齢も知らないです。
すごいラッキーだったというのもありますけどね。UCLAは州立の大学ですから、ポジションの数も比較的きちんと決められています。だから誰かが辞めないと入れないというのも事実で、僕の場合はたまたまタイミングよくスタッフになれたなと。
でもやっぱり、運というのは頑張って努力している人に与えられるものだと思います。本当にラッキーだったことばっかりなんですけどね、でも自分を信じて準備をし続けている人にだけラッキーのチャンスはくるなあって。アメリカに行くとか、なんでそんなこと考えたんだよって思ったこともありましたし、それこそ試験に落ちたとかで、何回も諦めそうになったんです。
USMLEをはじめとしたアメリカ医師免許の取得のための試験ってそんなに簡単なものじゃない、それを一発で通す、しかも高得点でないといい病院には呼んでもらえないってなるとかなり難しいんですよね…いまは点数制じゃなくなって、逆に基準がなくなって他の人と差をつけられないから余計に不利だなと思います。
落ちたのはStep 2 CSです。CKという知識を問われる方はめちゃくちゃ勉強していけばいいので大丈夫だったんですが、CSは模擬患者さんを13人位連続で診察するすごく大変な試験で。15分くらいでインタビューやら診察やらして、カルテ書いて鑑別診断つけて提出するんですが、英語の壁に阻まれて落とされました。日本人は合格率半分いかないくらいなのかな、本当に大変です。まあ、落ちてももう一回やればいいだけなので、諦めなければなんとかなるって言いたいだけかもしれないです。
出身は東京の慶應大学です。卒業後、臨床能力をつけないとアメリカ人と戦えないから、初期研修は激しいところに行った方がいいんじゃないかと思って初期研修は福岡県の麻生飯塚病院というところに行きました。で、やっぱり小児科の専門知識をつけないと戦えないと思っていたので、慶應大学の小児科に帰って入局しましたが、入局の時点で「2年後くらいにはアメリカに行きます」ってあらかじめ言いました。海外行くのは自由にどうぞ、って反応でしたね。結局2年間を医局でお世話になった後、ミシガン州デトロイトの小児病院で、小児てんかんのInformal Fellowshipの募集があるのを見つけてそこに行き、2年間、小児てんかんの患者さんを診たり、脳波を読んだりしてました。その後マッチングに応募して、ニューヨークのアルバートアインシュタイン医科大学で小児科2年・小児神経科3年のCombined Residencyというのをやり、さらにUCLAで2年間小児てんかんをやって、そのままスタッフとして残った、という流れで今に至ります。
これもまたサブリミナルな影響があったんだと思うんですけど、実はすごく仲のよかった小学校の友達がてんかんで。小学校5年生くらい残ろかな、一緒に卓球していた時に突然ぶっ倒れて、がくがくして震え始めて、救急車呼んで病院まで同行したんです。そしたらお母さんが僕に「このことは絶対誰にも言うな」って言うんですよ。お母さんが小学生の僕にそんなこと言うくらい怖い病気なんだって衝撃を受けた経験は今の僕に影響していると思います。てんかんって日本でもものすごく偏見のある病気で、お母さんの発言もそのせいだったんだなと今なら分かりますが。
大人の場合だと脳梗塞をモデルに症候学を考えることが多いですが、子どもの場合はてんかんの焦点によって出てくる症状が本当に多彩で。だからてんかんにはサブリミナルな部分もあってもともと影響があったし、学問の上でも面白いなと思っていたので、小児神経系の中でも小児てんかんを専門にすることは結構早いうちから考えていたんです。
かもしれない。あとは、医学部に入って、なぜかまず研究室に入りたいって思ったし、自分の中に研究に対する興味はあったんでしょう。
やっぱり、自分が本当にやりたいと思ってやらなきゃ厳しいですよね。留学するときに、ただ留学することだけを目的にしてこの先生とのコネクションがあるから麻酔科を選びますとかって人もいますけど、たいてい長続きしない。自分が心の底から本当にやりたいって思っていることをやらないと最後まで頑張れないです。
だって普通に楽しく暮らすなら日本の方がいいと思いますよ。安全だし、いくらアメリカに10年ちょっといたところでネイティブみたいに英語がしゃべれるわけでもないし。デトロイトは治安が悪いので、ホームレスに囲まれるような本当に危ない目にあったりとか、大変だったことはたくさんあります。でも、そういうことも含めて面白いんでないかな?人生経験なんじゃないかな?って思います。全く違う文化の中で生活するという体験だけでも人生を豊かにするような気はしますね。
留学すること自体は全くどうでもいいんです。自分の本当にやりたいことをやるためのひとつの手段に過ぎないんですから。日本にいてもダメなやつはどこに行ってもダメだし。どこかに行って何かを成し遂げたければ、日本にいるときにものすごい準備していないといけないし。だから本当に、何をしたいかが一番大切です。道はいくらでもあるので、目的があれば、失敗しながら、挫折しながらでも、いずれはその道に行き着くんじゃないかなと思います。