初期研修先選びしかり、留学先しかり、そういう選択はたくさん出てくると思います。それこそ旦那さん・お嫁さん選びだってね。そうなったら、選択肢をじっくりと考えて、一旦選んだら絶対に後悔しないと決めて、最後は自分がいいと思うものをエイっと選ぶ。それが運命だと思って選ぶ。選んだ先で何が起こっても言い訳しない、それだけの覚悟を持って選ぶんだと思います。
日本人でこちらに来る人はみんな誰でも毎日壁にぶち当たってるます、そんなもんじゃないですかね。文化や英語の面で苦労する人も多いですし、やっぱりはじめは必ず「こいつ本当にできるのか?」という目で見られますし。外国人というだけでスタート地点が違いますから、相当頑張って認められないといけない、だから日々必死にこなしていくんです。もう何が壁か考えることすら難しいくらいですよ。アメリカってだいたい契約書の更新が1年ごとなんですけど、研修医でもそれは同じで、クビを切られる日本人はもちろんいます。それは、環境に適応できなくて、パフォーマンスが期待に沿えなくてなんですが…もちろんアメリカ人でもそういう人はいるので、なかなか厳しい世界じゃないかなとは思います。
そういうことです。知識もそうですし、もちろんスキルもそう、それから技術も、あるいは研究で論文を出すとか、学会で発表するとか、なんでもかんでもすべてが評価項目になるんです。逆に言えばいくらでも自分をアピールする機会があるのだからすべては自分次第というところもありますけどね。
ロサンゼルスはもともとアジア人がすごく多いこともあって、あからさまな差別を受けることはもともとそれほど多くないんです。サンフランシスコでヘイトクライムの事件が報道されていましたけど、今のところ個人的には表だってそうしたものを感じることはありません。まあ、人によるとは思いますが。
どうですかね、例えば仕事を辞めてのんびり老後を過ごすなら、日本の方が住みやすいし、治安もいいし、人間性なのかもしれないけどコミュニケーションがとりやすい。そう考えると日本の方がいいかなとは思うんですけど、仕事という意味で考えると、自分の本当に興味あることを突き詰められるという意味でアメリカの方がいいなと思います。
うーん…本当に、本当にいっぱいいすぎて、1人だけ選ぶということはできないですよね…てんかんだけでも本当に色々なパターンがあるので難しいです。
日本の子どもかアメリカの子どもか、その違いはあまり意識しないです。Pathphysiologyは同じというか、やはり人間を扱っていることに変わりはないですから。あと、ロサンゼルスという土地柄、日本人の患者さんを診ることは実は結構あるんですよ。
おっしゃる通りで、日本の臨床医ってすごく忙しいですよね。大学病院の大学院生や研究医を見ていると、臨床をやって、夜中になってからラボに来て、朝ようやく帰り、そしてまた臨床に行く、という人もいますが、なんとかなるという人もいる一方で、それでは臨床でも研究でもハイレベルな仕事をこなすのは難しいんじゃないかと思うんです。日本の効率の悪さは自分が日本で働いていた時にも感じていましたが、アメリカでは役割分担がすごくしっかりしているおかげでシステムとして効率的だなあと思っています。まあ、マンパワーの違いが影響している部分もあるのは事実でしょうし、難しいですけどね。
アメリカの医療が必ずしもいい面ばかりではないですよ。確かに医療者サイドで見ればアメリカの方が人間らしい生活ができると思います。でも、医療費がすごく高いせいで、病院にかかったら本当に破産する人だっていることを考えると、患者サイドに立った時にはアメリカは辛い場所かなと思います。
役割分担が明確なおかげで、研究をやる人たちはすごく大きいチームに所属してひたすら研究に励み、臨床をやる人は臨床に集中し、そしてミーティングの場を設けてコラボレーションしながら論文を書く、というのが仕組み化されていてやりやすいのは事実です。あとは、大学同士だったり施設同士だったりでのコミュニケーションもよく取られてます。日本はどうしても医局制度が根強く、時に壁になると思うのですが、その点アメリカはチームでないところとも一緒にやるのがうまいので、多施設研究なんかもしやすい。日本はそういう面でちょっと負けてるかなあとは思いますね。そもそも医局制度をアメリカ人にどう説明したらいいか分かんないですね(笑)。
なんというか、僕、あまり後悔するタイプじゃないんですよね。戻りたいとも、戻ってこうしたいともさほど思わない。その時やれるだけ頑張って、あとは結果しょうがないって思うんです。全部うまくいくことなんてないじゃないですか。人生、受験勉強にしたって第一志望校に入れるとは限らないし、Residencyだって同じだし、そんなことの繰り返しですよ。いろんなうまくいかないことがあるのが当たり前だという前提のもと、ベストを尽くして、結果は受け入れる、というように考えているから、くよくよ後悔していることはないです。そういう性格の方が絶対得だと思う(笑)。
逆に、これからどうするか、目標に向かって今からどう頑張るか、ということは考えてあります。いい研究をするためにはどうしたらいい?となれば、本当に優れた研究者の論文を読んだり、話を聞いて自分のやり方に取り入れてみたり。例として、AI(Artificial Intelligence)って医療にも応用されつつあるものですが、UCLAには同じキャンパスにAIに関して優秀な人がいっぱいいるので、自分だけでやるのではなくてコラボしてやれる環境があります。自分ひとりでは限界があることにはこの1, 2年で自覚を持ったので、賢い人の能力を借りつつ、よりよい研究をしようと思って今はやっています。その点アメリカって、UCLAでもどこでも、本当に優秀な人たちがたくさん集まってくるので、コラボレーションして、本当にいい研究を進めていければいいなと思いますね。
日本ではポスドクや大学院生でも結構お金を使ってやることができますが、アメリカは基本的に自分でお金を取ってこないといけなくて、自分で全部書類をちゃんと書いて出す必要があるんです。だから、僕のために働いてくれている大学院生も、グラントが取れなくなったら研究ができない。そういう意味では結構きついですね。
NIHから大きなお金が下りてくるとAssociate Professorに上がれるかなあという感じです。でも僕は医学部の教員なので、自分にしかできないような治療を確立して、アメリカの様々な州や海外からも患者さんが集まってくるくらいの名声を得られるようになれば、それは昇進につながります。あとは学生からの評価も高くないと多分だめですね。要は臨床・教育・研究全部よくないと上がれません。実際意外とあるんですよね、臨床も研究もすごくできるのに学生からの評価が悪いことで昇進できないケースって…
そうね、やっぱり日々頑張るしかないですよ。目の前にいる患者さんとしっかりお話して、しっかり治療して、そうやって日々やれることをしっかりこなしていくことが一番です。研究についてももちろん頑張る、頑張るしかないんです。ちゃんとデータを解析して、論文を書いて、グラントを取って、というサイクルがひたすら続いていく。学生さんでも同じですよね、テストを通して、国試に受かって。医者、特にClinicianって、患者さんひとりでもいい加減に対応すれば、訴訟に巻き込まれて、ひとつのミスでキャリアを無駄にしてしまうことだって結構あるじゃないですか。やはり目の前のことをしっかりひとつずつやっていくということが最も大切なんじゃないかと思います。